第29回「藤本賞」の受賞者が次の通り決定した。授賞式は6月3日(木)午前11時30分から東京會舘で行われる。
▽藤本賞=木村大作 「劔岳 点の記」の企画・製作に対して(原作小説に積年の想いを託し、氷点下の立山連峰に延べ一年、誰もが不可能とする過酷な撮影行を、その志と覚悟に共鳴する俳優陣と精鋭のスタッフ一丸となって見事に完遂、凄絶な映像の力と登場人物の祈りにも似た山行が幅広い観客の胸を打つ渾身の一作を完成させ、単身で全国試写行脚を皮切りに宣伝の最先頭をも全力で走り、大ヒットを実現させた功績に対し。)
▽藤本賞・特別賞=角川歴彦 「沈まぬ太陽」の製作に対して(幾多の映画化を拒み続ける大河小説をまさに今問いかけるべきテーマと確信し、脚本に向けた原作との格闘に始まり、大陸をまたぐ壮大な海外ロケと三十年に及ぶ昭和の再現で天井知らずの予算、そして鎮魂の御巣鷹山の存在等次々と立ちはばかる難関を気迫の決断で克服し、孤独な企業人の挫折と不屈の再生を真正面から捉える社会派娯楽巨篇を堂々完成させた功績に対し。)
▽藤本賞・奨励賞=石丸彰彦 「ROOKIESー卒業ー」の製作に対して(熱血教師と問題児たちの衝突と成長を真正面から描き、若い世代の圧倒的支持を得たドラマの映画化を決断し、「卒業」を合言葉にキャストと視聴者が一体となって物語を完結させる巧みな脚本構想でその熱狂を持続、高純度の青春映画を完成し、巨大なメディア露出とタイアップの連打で質量共に図抜けた宣伝を組織する事で、邦洋合わせて昨年度興収第一位に輝くメガ・ヒットを実現させた功績に対し。)
▽藤本賞・新人賞=板尾創路 「板尾創路の脱獄王」の監督に対して(一級のコメディアンであり性格俳優として注目の異才が、兼ねてより愛する脱獄映画の企画と監督に初挑戦し、練りこまれた脚本で、ひたすら脱走を繰り返す無言の主人公とやがて明かされる動機の切なさを、個性的な文体と不思議なリズム感で活写、巧みなロケ設定とユニークな映像のトーンで、観客の目を捉えて放さない稚気あふれる異色の娯楽作品を完成させた功績に対し。)
▽藤本賞・新人賞=沖田修一 「南極料理人」の監督に対して(心ならずも南極越冬隊に参加した料理人の四〇〇日に及ぶ体験ルポに着目し、劇的な場所で起こる全く劇的では無い隊員たちの日常と童心を、主人公の料理の手さばきを通して的確に掬い取り、随所に笑いを散りばめながら、食べる事で作られる微妙な人間関係の変化を鮮やかに浮き彫りにする、期間限定の温かな擬似的家族映画を監督した功績に対し。)
(全文は2010/4/28発行の「連合通信放送映画速報」に掲載)