民放連の井上弘会長は28日、電波監理審議会が徳島県のケーブルテレビ事業者からの異議申し立てを認める旨の決定案を議決したことに関して要旨のようなコメントを発表した。
一、本日、議決された異議申し立ての事案は、ケーブルテレビ区域外再放送の大臣裁定申請に関し、「基幹放送事業者(地上テレビ放送事業者)が協議に応じず、または協議が調わないとき」(放送法第144条第1項)の要件が争点となった事案である。
一、今回の事案(株式会社ひのきの異議申し立て)において、電波監理審議会が異議申し立てを認め、総務大臣の拒否処分を取り消す旨の決定案を議決し、民民協議が尽くされないまま大臣裁定申請を容認したことは極めて遺憾である。
一、そもそもケーブルテレビによる無秩序な区域外再放送は地上民放テレビの存立基盤を危うくすることから、各地域の地上民放テレビ事業者とケーブルテレビ事業者は区域外再放送について地域の実態等を踏まえたうえで十分に協議を尽くす必要がある。旧有線テレビジョン放送法に大臣裁定制度が導入された昭和61年(1986年)の国会審議においても、当時の郵政省(現総務省)は「民間同士話すことが第一義である」、「大臣裁定制度は伝家の宝刀である」旨答弁し、その適用について「極力避けていきたい」、「慎重の上にも慎重を期す」としていたところだ。また、大臣裁定申請事案を審議した情報通信審議会有線放送部会の根元部会長は昨年6月20日の答申後会見で、「再送信(再放送)同意は放送事業者と有線テレビジョン放送事業者との協議で解決されることが基本」と述べている。
一、今回の事案が悪しき前例となり、各地域の民間同士の協議の意欲が失われ、安易かつ一方的な大臣裁定申請が常態化し、地域に根ざした放送メディアの将来に禍根を残すことを深く憂慮する。
一、大臣裁定制度は、当時のケーブルテレビの規模が非常に小さかったことから、区域外再放送によって地上テレビ放送の地域免許制度の形骸化は起こらない、という前提で導入されたものだ。ケーブルテレビが全世帯の半数を超えて普及し、ケーブルテレビの大規模化がより進みつつある現在、大臣裁定制度の立法事実はすでに失われている。大臣裁定制度は憲法第21条の「表現の自由」に基づく地上テレビ放送事業者の「番組編集上の意図」(自らの放送対象地域以外で表現しない自由)を制約するものであり、また、著作権法に基づく地上テレビ放送事業者の著作権及び著作隣接権とも整合がとれない。
一、今回の事案は、四半世紀以前に導入された大臣裁定制度の維持がもはや限界にきていることを顕著に示している。情報化社会の進展を踏まえ、行政として速やかに大臣裁定制度の撤廃を喫緊の課題として議論すべきと考える。